先に潰しておく——「無料でやる」道はほぼ塞がっている
比較の前に選択肢を絞ります。よく候補に挙がる2つは、いま現実的ではありません。
ひとつはGoogle Colabの無料枠です。Colabの公式FAQは、無償で動くランタイムで「notebook UIを迂回して、主にWeb UI経由で操作すること」を禁止事項として挙げています。AUTOMATIC1111のようなWebUIをColabで立ち上げる使い方が、まさにこれに当たります。加えて同FAQは無料版について「GPUのような高価なリソースへのアクセスは厳しく制限されている」「Colabのリソースは保証されておらず、無制限でもない」とも書いています。数年前の解説記事のとおりに動かそうとして止まるのは、この規約の側が変わったためです。
もうひとつは共用レンタルサーバーです。WordPressを置くようなプランにはGPUが載っていないため、Stable Diffusionは動きません。TOOLDAQのサーバー選びのガイドで扱っている各社の共用プランは、Webサイトの公開やAIエージェントの常駐には使えても、画像生成の実行環境にはなりません。ここを取り違えると、契約してから気づくことになります。
残るのは3つです。
①ローカルPC(GPUを自分で用意する)、②管理型のクラウドサービス(ConoHa AI Canvasのように、WebUIまで用意されたものをブラウザで使う)、③GPU付きのVPS(XServer VPS for GPUのように、GPUサーバーを借りて自分で構築する)。この3つを同じ土俵、つまり1時間あたりいくらかで並べます。
時間単価で並べる——電気代は判断材料にならない
| 選択肢 | 時間単価 | 月の固定費 | 環境構築 | 課金が止まる条件 |
|---|---|---|---|---|
| ローカルPC | 約5.58円(電気代) | 0円(初期投資は別) | 自分でやる | 電源を切れば止まる |
| ConoHa AI Canvas | 396円(6.6円/分) | 990円〜(税込) | 不要 | WebUIを終了した時点 |
| XServer VPS for GPU | 150円(税込) | 0円(初期費用無料) | 自分でやる | サーバーを削除するまで止まらない |
各社公式サイト・公式FAQ・公式リリースで2026年8月30日に確認。ローカルの時間単価は編集部の計算(根拠は次の段落)。
ローカルの5.58円/時は、こう出しています。公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会が定める電気料金の目安単価は31円/kWh(税込・令和4年7月22日改定)。家電メーカーが電気代の目安を示すときに使う公的な単価です。ここにNVIDIA公式が公表するGeForce RTX 5060 Ti の Total Graphics Power180Wを当てると、0.18kW×31円で1時間あたり5.58円になります。PC全体ではもっと食いますが、それでも二桁円の域を出ません。
クラウドの396円/時と比べると、電気代は桁が2つ違います。「ローカルは電気代がかかるからクラウドが得」という説明を見かけますが、その差は判断を動かしません。動かすのは初期投資です。
そしてこの表でいちばん重要なのは、いちばん右の列です。時間単価だけを見るとXServer VPS for GPUの150円が圧倒的に安く見えますが、公式FAQはこう書いています。「GPUサーバーはサーバーを停止(シャットダウン)しても課金は停止しません。サーバーを削除(解約)していただく必要があります。」
電源を落としても止まりません。止めるには消すしかない、ということです。使い終わるたびに削除する運用をしない限り、時間課金は進み続け、上限の88,000円/月まで到達します。150円/時という数字は「毎回作って、毎回消す」人のための価格で、作りっぱなしにする人のための価格ではありません。搭載GPUはNVIDIA L4(VRAM 24GB)で、Automatic1111とInvokeAIのアプリケーションイメージが選べます。構築の手間は軽くなりますが、消す手間は自分で背負います。
ConoHa AI Canvasはここが逆で、課金はWebUIを起動してから終了するまでの分単位。自動終了時間の設定もあり、初期値は60分です。仕組みの詳細はConoHa AI Canvasの料金と使い方にまとめてあります。
実際の月額に落とすと、こうなります。
| 月の作業時間 | ConoHa(エントリー) | XServer GPU(毎回削除) | ローカル(電気代) |
|---|---|---|---|
| 5時間 | 2,970円 | 750円 | 約28円 |
| 10時間 | 4,950円 | 1,500円 | 約56円 |
| 20時間 | 8,910円 | 3,000円 | 約112円 |
| 40時間 | 16,830円 | 6,000円 | 約223円 |
| 削除し忘れて1か月放置 | — | 88,000円(上限) | — |
編集部が公式の単価から計算した試算(すべて税込)。ConoHaは基本料金990円+6.6円/分で、毎月付く無料利用時間を差し引いていない上限側の数字です(実際の請求はこれより安くなります)。ローカルはGPUの電気代のみで、PC本体ぶんとGPUの購入費は含みません。
損益分岐——「追加投資額 ÷ 時間単価」で出る
GPUやGPU搭載PCの実売価格は変動が大きく、NVIDIAの日本語公式ページも希望小売価格を空欄のままにしています。そこで金額を決め打ちせず、読者が自分の見積額を当てはめる形にします。計算は単純で、ローカルに追加で払う金額を、クラウドとの時間単価の差(ConoHaなら396−5.58=約390円、XServerなら150−5.58=約144円)で割るだけです。
| ローカルへの追加投資額 | ConoHaと並ぶ時間 | 月10時間なら | 月30時間なら |
|---|---|---|---|
| 5万円 | 約128時間 | 約13か月 | 約4か月 |
| 10万円 | 約256時間 | 約26か月 | 約9か月 |
| 20万円 | 約512時間 | 約51か月 | 約17か月 |
| 30万円 | 約768時間 | 約77か月 | 約26か月 |
編集部の試算。ConoHaの基本料金990円/月は含めていません(含めれば分岐はもう少し早まります)。XServer VPS for GPUを毎回削除する運用と比べる場合、同じ順に約346時間・約692時間・約1,385時間・約2,077時間です。
読み方はひとつだけです。月10時間前後の使い方をする人にとって、10万円のGPUは2年以上かけないと元が取れません。その2年のあいだにモデルは何世代か入れ替わり、要求VRAMも上がります。「せっかく買うなら」で上位GPUに寄せるほど、この期間は伸びます。
逆に月30時間を超えるなら、話は反転します。10万円なら9か月、5万円なら4か月で並びます。毎日1時間まわす人は年間360時間を超えるので、ローカルを組んだほうが確実に安く、しかも時間を気にせず試行錯誤できます。クラウドの分単位課金は、生成そのものより「悩んでいる時間」に効いてくるからです。
向かない人——環境構築の9時間を、いくらと数えるか
ここまでの計算には、ひとつ入っていない費用があります。ローカル構築にかかる自分の時間です。
実際の記録を見ると、これは無視できません。ある技術記事の筆者はGTX 1060(VRAM 6GB)で標準のStable Diffusionを起動しようとしてRuntimeError: CUDA out of memoryで止まり、メモリ最適化版に切り替えてようやく動かしています。別の書き手はノートPCのRTX A2000(VRAM 4GB)で、AUTOMATIC1111の起動に約5時間費やしたあとNumPyのバージョン差でエラーに当たり、軽量版のWebUI Forgeへ乗り換えて起動にこぎつけました。所要は合計約9時間、それでも重いモデルでは1枚に約5分かかっています。さらに別の記録は5回の挫折を数えており、詰まった理由として「解説記事どうしで手順が食い違う」「モデル配布サイトが重くて開かない」「生成した画像が真っ黒になる」「日本語の詳しい記事がほとんどない」を挙げています。
この9時間を「趣味の時間だから0円」と数える人は、ローカルが向いています。分岐点の計算も、その人にとってはそのまま成立します。反対に、これを仕事の時間として数えるなら、クラウドの396円/時は9時間ぶんで3,564円にしかなりません。時給がそれを上回る人にとって、構築作業は最初から割に合わない買い物です。
クラウドが向かない人も、はっきりしています。ConoHa AI Canvasには無料プランも無料トライアルもなく、解約は当月末で即時にはできません。1契約で起動できるWebUIは1つだけなので、LoRA学習を回している間は生成に使えません。「気が向いたときに10分だけ触りたい」使い方には、月額の固定費と解約の段取りが重すぎます。XServer VPS for GPUのほうは、前述のとおり削除しない限り課金が止まりません。使うたびに作って消す手間を許容できないなら、150円/時という数字は絵に描いた餅です。
迷ったら、この順で決めるのが早いはずです。
1. VRAM 8GB以上のGPUをすでに持っているか。持っているなら、まずローカルで試すのが合理的です。追加投資がゼロなので、分岐点の計算そのものが不要になります。
2. 持っていないなら、月に何時間触るか。10時間前後で収まるならクラウド、30時間を超えそうならGPUの購入を検討する価値があります。
3. 環境構築を自分でやりたいか。やりたくないならConoHa AI Canvas、やってもいいならXServer VPS for GPU(ただし毎回削除する運用が前提)です。
TOOLDAQのConoHa AI Canvasの格付けページもあわせて確認してください。